「EVE burst error」「YU-NO」菅野ひろゆき氏への遅れた追悼・日本のアドベンチャー史の何を変えたのか?

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  去年の暮れに唐突な訃報が入ってから数ヶ月経つ。オレはここ数年でようやく作品に触れたくらいなんだけど、菅野ひろゆき作品というのは今の時点から振り返ると、今の「シュタインズ・ゲート」から「魔法少女まどか☆マギカ」といったアニメからゲームが当たり前のように使っているストーリーテリングを先行していたことに驚く。

 菅野作品は一体何を早い段階で実現していたのか?やっぱ代表作の「デザイア」EVE burst error」「YU-NO」の3作をメインに語ることになってしまうけど、この3作が今のアドベンチャーゲームはじめ、先のシュタゲやまどマギにまで繋がるストーリーテリング方法を90年代の時点で完成させていたことは確かだ。ということで、アンダーグラウンドのエロゲー・ギャルゲー界隈から凄まじい影響を与えた作家の再評価を通した、90年代~2000年代のアドベンチャーを振り返ったものです。

1・複数の主人公をザッピングして切り替えることや、マルチサイトシステムなどで多角的な視点で物語を描写すること

 これは「デザイア」「EVE」「エキソダスギルティー」などなど菅野作品でかなり多用されている手法の一つだ。

 主人公をザッピングしていくやり方は、ファミコン時代のアドベンチャーを振り返っても「ふぁみこん昔話 新・鬼が島」「神宮寺三郎・時の過ぎゆくままに」などなど、遡ればもっと早い段階で実現している作品はけっこうあるわけで、元々アクションゲームやRPGと比べて、コマンドを選んで探索していくというようなゲームシステムというものが売りになり辛いアドベンチャーゲームが打ち出す、新しさを出すゲームシステムとしてその実水面下で行われていた方法だといえ、その手法を全開にしたザッピング群像劇の最高峰「街」で完成に至るまで、振り返ればけっこうな作品が行っており、アドベンチャーゲームの語りの進化と言う部分を示すものだと思う。

 

 菅野作品でのザッピングはゲームのフラグ立ての謎解きとして機能させるものでなく、そうしたストーリーテリングを深める方法として機能させており、「デザイア」は3人の視点によって物語を立体的にさせ、「EVE burst error」は元々目的が別の探偵物語とボディガードの物語として進みながら、ところどころリンクしながら最終的に真相に向かって交錯させる構成を取っており、ハッキングのシーンは(セガサターン版はディスク入れ替えのめんどくささと共に)ハイライトとしてよく語られている。

 

2・「ゲームのリプレイによって異なる分岐点にシナリオを進めること」を時を循環させることや、それで起こる並行世界の表現にしてしまう

 今のゲームからアニメまで当然のように使われることでこの同じ時をループしつづけること、同じ時空に閉じ込められたところから脱出しようとする物語というのは珍しくはなくなったが、こうした流れの嚆矢となったと思われるのが「デザイア」で、さらにそれを一歩ゲームシステムとともに推し進めたのが「YU-NO」になると思う。

 

 「クロノトリガー」といった単純な時間冒険物語と別に、古くのSFから時間跳躍をテーマにしたものはタイム・パラドックスの問題解決という理屈で「過去を変えたことで別の可能性の世界に入った」ということで、ここで世界観補強のために量子力学観測問題における解釈の一つ・多世界解釈(シュレディンガーの猫うんぬん)が援用されるなどして、別の可能性が実現されている並行世界に移動していくことを、「YU-NO」にて「同じシナリオを繰り返し分岐ごとに物語や結末が変わっていく」というアドベンチャーゲームの構造に当てはめることを実現させた。

3・以上の要素を生かしたアドベンチャーゲームという構造の逆転

 以上2つの要素をアドベンチャーゲームの構造にミックスさせることにより、ストーリーテリング・フラグ立てや行動・選択によるルートの分岐と言ったゲームシステム共に生かすことに成功させ、菅野作品の代表的なこの3作品はアドベンチャーゲームというものの本質に触れるような感慨を受けるとともに、過去の時間SFの想像力をも蘇らせたことが大きい。「YU-NO」のアドベンチャーゲームの選択肢や行動にによって枝分かれするルートマップを、多世界解釈によって世界が分岐して行くプリンダーの樹と見立てたことはその白眉だろう。

 以上の「同じ時空を繰り返し、選択と行動によって分岐する並行世界」というアドベンチャーゲームの構造をこうして逆転させて生かすという手法はKIDのインフィニティシリーズなどなどが引き継がれたと見え、 「EVER17」にて結実させた。また同じギャルゲエロゲ業界にてデビューした「まどか☆マギカ」の脚本家・虚淵玄氏もそうした菅野作品から後続のインフィニティシリーズの流れの影響下にあったと見え、「まどか」にてそのギミックをアニメにて生かしているように見える。

 こうして現在のアドベンチャーからアニメのストーリー構築に至るまで暗に強い影響を与えた菅野作品ではあるが、やっぱこのインスピレーションを与えたのがSFやミステリを読みこんでいたことに寄る発想の基礎体力あってのものだと思う。 「ミステリート」ってのは思うにそういう地力みたいのが見えると思うし、すごく大仰に評価するならばミステリの名作「アクロイド殺し」でミステリの仕掛けを凝るあまり、小説という構造の本質にまで触れてしまったアガサ・クリスティの後継者的なことをやってのけたのだ、とまで言えそうだ。

 菅野氏が亡くなる前のツイッターを見ていたら、これもまた多世界解釈によるSFを取り扱った映画ダンカン・ジョーンズ監督の「ミッション・8ミニッツ」に関してのツイートがあった。これも、生きていて観ていたならば一体どういう感想を抱いたのだろうか?

5件のコメント

  1. 菅野ひろゆきさんが亡くなったことをこのブログで今知りました。
    好きな作品が多かったので上に挙げた3作品全てプレイしました。
    たまたま自分のブログでEVEの話題を出してこのブログにたどり着きました。
    非常に残念で仕方ないです。
    それでは失礼します。

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  2. 辺境のゲームブログ・ゲームスコープサイズへのコメント&トラックバックありがとうございます!
    そちらの記事も拝見させて頂きました。私もリアルタイムでやってみたかったんですが、そんとき小学生でした(笑
    この記事で書きそびれてたことがあって、それは「菅野代表作以降でエロの表現はどう変わったのか?」ということなんですが、そもそもエロゲーはまったく遊んだことが無くギャルゲーもあんまりやらない中では判断がつきかねるということで、もしその方面に詳しければ追求してみて下さい(笑)

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  3. 若手のシナリオライターとかが、「新しいこと思いついた」ってなっても、大抵菅野さんが既に全部やってしまってるみたいな、そのぐらい今の美少女ゲームや、アニメの基礎を作った人であることは間違いないでしょうね

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  4. >ケロケロさん
    ノベルゲームという構造を採用する限り、やはりその構造にいち早く気付き、SF見立てで逆転させて使った菅野作品がジャンルの発展できる限界値の一つであったのかもしれないなと、気がつけばノベルゲームでループや並行世界ガジェットが頻発するのを見るにつけ思ってしまいます。

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