「TENGAMI」感想&考察 それは雰囲気以上に、スマホ&タブレット以降のアドベンチャーの正統進化の可能性

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 「TENGAMI」はその和紙に彩られた仕掛け絵本によるビジュアルの印象が大きく、すでに挙がっているたとえばスマートフォンのゲームレビューの大手ゲームキャストさんiPhone AC番外レポートさんのレビューを見ても「雰囲気ゲー」「芸術作品」といったゲームメカニクスからほとんど手を引いた評価になっている。

 しかしオレのクリアしての感想はというと逆だ。これはパソコンでのポイント&クリックアドベンチャーから時代が進んで、スマートフォン&タブレット以降のアドベンチャーゲームのゲームメカニクスの進歩の一つの可能性の一つな気がする。本作のクリエイトのスタートはどこまでも正統なアドベンチャーのメカニックや手触りの面を意識して、特徴的なビジュアルを元に謎解きやパズルを解いていく「MYST」のような系譜で始まっているのではないかと思う。

 ゲームはパソコンのマウス&キーボードからコントローラーとデバイスの違いによってメカニックが変貌していくのだが、アドベンチャーにおいてもその変貌は無縁じゃない。今回エントリはポイント&クリックアドベンチャーの文脈を元にした「TENGAMI」の進歩の可能性についてのレビュー。

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 アドベンチャーはインターフェースによってかなり影響を受けると見る。初期のパソコンではキーボードのみのデバイスであるため、直接行動を単語として打ち込むことでインタラクションを行い、ゲームのパズルや謎解きを行っていくコマンド入力式のものだった。

 マウスがデバイスになって以降では、そのポイントを移動させて気になるところをクリックすることでインタラクションするということから、欧米のルーカスアーツやシエラ・オンラインなどが豊富なヴィジュアルに直接クリックして進めるポイント&クリックアドベンチャーを築き上げていった。

 それからDS&Wiiからスマートフォン・タブレット時代になり、膨大なコストのかからないダウンロード市場にてポイント&クリックの流れは繋がってきていると思われる。現在過去のPCでリリースされた「broken sword」シリーズなどや、bigfish gamesやG5entertainmentなどが量産しているポイント&クリックの探索面を極端にしたライトな探し物アドベンチャーなどがリリースされている。

 そして現在、アドベンチャーを取り巻くそうした環境とスマホ&タブレットというデバイスが持っているコントロールから逆算されたデザインのADVというのが徐々に出始めてきていると見ている。「ゼルダの伝説」のゲーム進行の脱構築を元に、SNSや時間もテーマに織り込んだ試みの「スキタイのムスメ」などに続く意味で、「TENGAMI」はある種のADVの先端に切り込もうとしているかに見える。それは何か?

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  縦書きの日本では本は右から開く。横書きの欧米はじめ海外では左から本を開く。冒頭で象徴される日本と西欧文化の交錯感

  「TENGAMI」は日本のアクワイアやイギリスのレア社に関わっていたことのあるメンバーによって製作されたゲームだ。音楽も「スーパードンキーコング」シリーズのデビット・ワイズが関わっているのもあって、何かと日本でも馴染の深い海外製作を行ってきたチームの作品となっている。

 なので日本人が作る西欧ファンタジーというのとある種構図が逆になるような感じで、イギリスにとっての日本解釈という面が強い。普通それには大きな誤差が出てきちゃうものなんだけど、日本人スタッフも含んでのものなのでこのあたりの誤差に関してはほぼゼロに近い。

 ではイギリスならではの特殊な部分というのは何か?というとそもそものこの仕掛け絵本というモチーフそのものだ。仕掛け絵本にはロバート・サブダといった著名な作家による「不思議の国のアリス」などが凄まじいクオリティを誇っているのだが、意外なことに日本にて代表的な仕掛け絵本というのが簡単に検索して調べてみたところ見当たらない。細かい、緻密な作業を得意とする日本人だなんて言われるなか、仕掛け絵本の世界ではそんな目立つ作品が無いのである。つまり、仕掛け絵本というもの自体がその実、日本とは別の文脈のもの・日本でも独自進化してはいないものではないだろうか?

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      仕掛け絵本の世界の巨匠、ロバート・サブダによる高い技術とアイディアの世界。

 「TENGAMI」の意外な革新性とはここであり、まず日本人による仕掛け絵本で目立ったものが無いことに加え、その次に本来仕掛け絵本にするには柔らかすぎるために、強度が足りなくて向かない和紙を元にしていることだ。

 

 現行のCGデザインの質が上がったことにより、実は現実の仕掛け絵本では実現しきれないものをビデオゲームにて実現しているのではないか?と見える。ここで描かれる風景のデザインは相当なものであり、和紙の実感を感じさせるテクスチャーに加え、水墨画のように紙に色を染み込ませて広げて、グラデーションを作った背景は相当なものだ。

 本来実現が難しかっただろう日本の紙による、西欧文化的な仕掛け絵本とビデオゲームでの交錯。それはイギリスにて日本の歴史的なモチーフを取り扱う構図そのもののようだ。
 

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   この日本には仕掛け絵本の独自進化は(おそらくなかった)し、そして和紙による仕掛け絵本というものも現実には実現できなかっただろうもの。現在のCGデザインが生んだ「ありそうでなかった」仕掛け絵本

 そして仕掛け絵本へのインタラクションそのものが、スマホ&タブレットのデバイスと繋がる。それは指でのタッチとそこからのフリックである。現在kindleなど電子書籍などでページを送る際の動作で当たり前となっているのだが、ここがスマホ&タブレット時代のアドベンチャーの可能性のポイントであるように思う。

 マウスでのポイント&クリックではなく、ポイント&フリック。ロバート・サブダの仕掛け絵本が開かれたページの中で数多くの仕掛けをいじくれるようになっているように、「TENGAMI」の世界も各所にてタッチとフリックによって仕掛けをいじっていく形でスマホ&タブレットと仕掛け絵本というメカニックが繋がっているのだ。

 こうして実は現実で実現困難な和紙での仕掛け絵本という盲点かつ美しいビジュアルを眺めることと、スマホ&タブレットによるタッチとフリックのインターフェースが仕掛け絵本というもののメカニックと繋がることで、ストーリーを読んでいくという形でなく、提示されたパズルの謎解きをマップに提示されたヒントを見つけながら解いていくことを主にしている。こうした構成はむしろ、初期pcからスマホ&タブレットに至るアドベンチャー史の正統進化の一つの可能性じゃないだろうか?

 もちろん「TENGAMI」は完璧じゃない。既に書かれているように、仕掛け絵本のマップを行き来して謎を解くデザインであるにかかわらず、プレイアブルキャラの動きが遅いことによる遊び難さという部分はあるし、やはり比較されると思うが「大神」の持っていたギミックの数々とその豪華絢爛さを思い出すと(当時のクローバースタジオの規模と比較するのは酷とはいえ)、スマホ&タブレットのインターフェースに適応したデザインとはいえその力を引き出し切れていない。

 というのも、スマホ&タブレットの操作でタップとフリックのみが特化していて、指2本で行うピンチアウト・ピンチインといった動作によるギミックなどが足りてない。この行為には「紙を引き裂く・紙をめくる」といったギミックなどが可能だと思われ、そこでまたパズルにも深みは出るはず。また、和紙によるあの水墨のカラーリングにしてもどうせなら「ドラッグした部分から色が染まって変わっていく」というのも魅力になるし、パズルの一つになりえるんじゃないか?wiiの隠れた名作謎解きアドベンチャーに「宝島Z」があるんだけど、これはWiiというインターフェースを生かした謎解きを行わせる傑作だったし、ああいう風な閃きを呼ぶのも可能ではないか。(ただ、「宝島Z」はアート&コンセプト面はダメダメでした…)

 

 このタイトルには間違いなく可能性があり、次回作がもし可能ならば仕掛け絵本としての魅力、日本の和紙の特徴というものさえスマホ&タブレットのインターフェースと繋げていくことによって更なる飛躍した作品になれるだろう。間違いなく猛獣になる虎の子に触れているかのような感覚を覚える。

 最後にデビット・ワイズのサウンドプロダクトに触れて締める。ワイズの音楽が素晴らしいのは映画のアンダースコア的な、ストーリーでのBGMによる感情移入の説明になるわけでもなく、また他のプログレやフュージョンのような楽曲をシーンに当てはめるといったものではなく、「スーパードンキーコング」のころからステージの風景や環境に合わせた音作りを実現していることだ。しかもアンビエントで終わることなく、メロディによる印象の提示も行えるバランスを持っていることで、それが意外にいない分野と思う。「TENGAMI」でもそれはいかんなく発揮されており、日本の琴をはじめとした楽器によって紡がれる楽曲が、和紙に染みた水墨の風景と一致する。

 

 

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1件のコメント

  1. 『隣の陰陽師 弐──怨念の共鳴』

    今回は電子書籍のセルフパブリッシングの紹介です。 拙著『隣の陰陽師』シリーズ第二弾が出ましたのでおしらせします。 第二弾は『隣の陰陽師 弐──怨念の共鳴』です。 以下はAmazonに掲載している紹介文より。 ──── 憑きもの落としに失敗した流雲は、次に憑か……

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