METRO2033 小説とFPS 一本道の地下鉄 ”アルチョム”と”僕”

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 ”わかるか?死んでも、疲れ果てた魂が生まれ変わることはない。魂が安らげる場所はない。生前と同じ世界にとどまるしかないんだ。つまり、地下鉄の世界に。

 

 学問的な説明はできないが、私には、はっきりわかる。この世界では、人々の魂は地下の狭苦しいトンネルの中を舞い続ける。時の終わりまで。急ぐ必要はない。

 

 メトロには、現世と来世が共存している、ここはエデンの園であり、地獄でもある。私も、お前さんも死者の魂と共に生活している。死者の魂が、がっちりと輪になって、我々を取り囲んでいるのだ。列車にひかれた者、銃殺された者、絞殺された者、化け物に食われた者、焼け死んだ者……その他、ありとあらゆる非業の死を遂げた人々の魂だ。それらがどこに消えるのか、消えないなら存在を感じないのはなぜか、暗闇に光る重さの無い冷たい視線を感じないのはなぜなのか、私はずっと考えてきた”。


 ビデオゲームをスタートさせる。どうやら主観の自分はなにか目的を持ち、いま地下から梯子を上り、荒廃した地上へと出ようとしているようだ。仲間の一人に「アルチョム」と呼ばれる。ロード画面に入る。次のシーンへのローディングの間、”僕”のモノローグが差し挟まれる。

 小説を紐解く。アルチョムというひとりの青年を中心に、ロシアの近代から現代にかけてのカオスがそのまま閉じ込められたみたいな陰鬱な地下世界についてが展開される。三人称で進み、”僕”という内面のモノローグや主観じゃなく半ば客観的に世界が描かれる。ロシアは核戦争で崩壊し、地上は放射能があふれ、”黒き者”と呼ばれる実態不明のものが立ちはだかる。

 ロシアのドミトリー・グルホフスキーによってWEB上で発表され、ベストセラーとなった小説のゲーム化。2010年の作品を今更ながらやってる。「S.T.A.L.K.A.R Shadow of chernobyl」のスタッフが関わってることに加え、放射能によって汚染された大地をテーマにしていることで兄弟関係を見出す評価もある。(あれもアンドレイ・タルコフスキーの映画~ストルガツキー兄弟の小説「ストーカー」の影響が見えるってことで、小説とリニアなビデオゲームの関連を見出せなくもない)

 陰鬱でありながら、とても実直な進行をする。それはグルホフスキーの小説も、4Aゲームスによる本作も同じだ。何も世界についてわかりはしない青年が、数多くの善とも悪とも知れない、強い目的に導かれる人間たちと出会いながら、地下のレールの上を歩き、ポリスを目指していく。

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 メカニック的には弾薬を考えながら進んでいくサバイバルを要求されるデザインで、時には地下を覆う影を利用したステルスもある。荒廃した地下と地上で襲い掛かってくるのは鈍い藍色のクリーチャーだけではない。地下で跋扈する赤軍・ナチスといったセクトが地下鉄中に罠を張る。こんなふうに銃撃戦以上に全体を支配するのは荒廃した世界への不安さだ。

 

 その不安の手触りは徹底している。手にしたライトは手製で充電しないと消えていくし、次に進む場所のマーカーや目的は手にしたボードにメモされているが、暗い地下鉄の中ではライターをつけなければ読むことが出来ない。放射能で汚染された地上を出た時にはガスマスクをつけなければたちまち死んでしまう。ガスマスクのフィルターも長い時間は使えない。危険区域で出歩ける時間は限られる。しばらくすれば荒い息を吐くようになり、マスクの視界は徐々に曇る。不安と陰鬱さが募る。

 原作小説の”アルチョム”はこんなふうに体感するような描写は少ない。かわりに描かれるのは地下鉄の中で別れ別れになる、まるで20世紀中盤で死んだはずの価値による連中が暗闇の中で散り散りになっているカオスの描写や、アルチョムに出会う人間たちが彼に語る世界のありようや道筋、その人間が掴んだであろう真理のモノローグだ。

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 主観で一本の地下鉄を進むFPS。地下鉄の様々な世界観で生きる人間たちと出会う小説。やがてメトロというものが一つのメタファーとして浮かび上がってくる。何のメタファーかって?生から死への一本のレール。誰もそこから降りることはできない。途中にはとても重要な分岐がある。などなど…そんなのはありふれていて陳腐かもしれない。だがあまりにも暗いメタファーだ。

  ポスト・アポカリプス後の荒廃した世界を知り生き抜くことという大筋は、そのまま少年の成長譚へとシフトすることは少なくないのだが、それが地下に集約された形というのはロシアの誰かがいった「いいことが続かないことをみんな肌で知っている」という言葉の中で生きているかのような世界のとらえ方のようだ。類型的で時に明るく描かれがちなそれではなく、苦い。まるで美術館のようとも駅によって称されるロシアの地下鉄、そこに暗示されるのは厳しい現実への視点だ。

 

 アルチョム、そして”僕”の旅の終わり、ここまでに出くわしてきた超常の現象を引き起こしてきた”黒き者”との対峙。そこで世界の真相を目の当たりにするのだが、ゲームではエンディングまでの行動によって分岐。原作小説の結末はゲームの2つのエンディングを併せ持った長い旅路の果てに見出した希望と苦さが共存する美しいシークエンスによって幕を閉じる。高い塔の上、地下の暗闇の中で見ることのできなかった朝日の光をアルチョムは静かに浴びる。

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4件のコメント

  1. このゲーム良いですよね…
    頽廃的な世界観や地下を舞台とした閉塞感、
    エンディングを迎えた後のちょっぴり切ないノスタルジックな感傷…
    fallout3にしろ核戦争にFPSって上手く調和する気がしますね

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  2. >ジョン・ドゥさん
    ポストアポカリプスがテーマの作品は
    ゲームメカニック的にはサバイバルという根源的な部分を使えるし
    物語的には本作みたいな厳しい現実や世界に対する旅みたいにできる。
    なので独特の感傷がありますね。

    いいね

  3. >saboo さん
    そうそう、STALKERも今遊んでるんですが
    もう近辺に原発の崩壊と放射能という現実が近い中で
    視点がそんな冷たいものになっているっていう。

    いいね

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