本当のホームズは空虚な闇だらけの現実を生きる 「Sherlock Holmes: Crimes & Punishments」レビュー

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 シャーロックホームズは古典的で、典型的で、もはや面白味なんて決まりきったはずの探偵のキャラとそこまで思い入れの無いオレなんかは思っていた。この世にはシャーロキアンと呼ばれる「ホームズの存在をいかに実在の人物のようにディテールを詰めて解釈できるか?」みたいなマニアックな楽しみ方をしてる人々がいるのはわかるが、基本そこまで掘り下げては知らない。(そういうのはやや古い話だが「磯野家の謎」みたいでそこまで好きじゃない)

 
 しかし現代はそんな古典的キャラクターの再解釈というのは常に常に進んでいるわけで、たとえばアメコミの世界などは古典的で典型化したはずのキャラ像を常に更新し続けている。スーパーマンやスパイダーマン、そしてバットマンなどはその当時当時のライターの作家性や映画監督の切り口によって新たな姿を見せているわけだ。

 そうホームズも近年ではドラマ「SHERLOCK」「エレメンタリー」といった(ほんとに舞台までも含め)現代解釈が進められ、そこでは典型的なそれじゃない。フィーチャーされるのはホームズの人間性や精神の欠陥であり、その裏打ちとしての強烈な推察能力というディテールだ。

 今回のSherlock Holmes: Crimes & Punishments」はそんなホームズというキャラクターの現代ならではの解釈が為された姿だ。そこにあるのは、すでに類型化されたどんな事件も解決してしまう探偵像というよりもホームズの現実への冷たい目線、実態の見えない感情といった人間性そのものの恐るべき空白だ。
 

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   この作品では6つの事件を解決していくのだが、正直なところおのおのの事件自体はそこまで面白くはない。とりあえず典型的な殺人ミステリから地下遺跡の冒険、凝ったトリックの事件など一通りのバリエーションがあるのだが、しかしそれ自体は全く問題ではない。

 

 この作品が独特のなのはそんな典型的な事件に向き合うホームズの冷たく潜む人間性の狂気そのものだ。プレイヤーの感覚に最も近い一般的で良識的、ほどほどに感情的なワトソンと比較することでそれが明確になる。

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 それは冒頭から示唆される。まずプレイヤーが操作するのはワトソン。自室から始まるのだが、なんとホームズの書斎から銃声が聴こえる。いったい何が起きてるんだ?と思いきや、ホームズが目隠しして壺を拳銃で撃ち落とす遊びをやっていたのだ。ワトソンが部屋に入り声をかけようが、かまわずに拳銃を放ち続ける。

 プレイヤーは常識人ワトソンの目を通していったい何を考え、何を感じているのか全く実態の掴めないホームズへとプレイアブルキャラクターが移るという形なのだが、冒頭から察せられるように人間性の歪な欠落を反映するかのようにホームズは冷たい視線を崩さない。

 各々の事件に向かうホームズの視線には今の典型的な探偵キャラクター像だろう金田一くんやコナンくんのような正義や善悪、そして事件の結末に対して情緒的な結論を探り出そうなどという温かみはひとかけらでさえない。現実はロジックとルールだけが冷たく存在し、正義や善悪というもの、そして情緒的なものはすべて後付の不要なものに過ぎないという視線だ。

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 それはtelltale gamesの「the walking dead」あたりからフィーチャーされるようになった答えの出ない問題をプレイヤーに突きつけるモラル選択というシステムも大きくその印象に加担してる。

 本作では犯人に対して事件の刑罰を推理の最後に選択することが可能なのだが、ここも正直なところゲームメカニック的に効果的なのか?ということや、プレイヤー自身のモラル評価をシビアに判定するものになっているか?というと実はそんなに効果的ではない。

 ところがこれがホームズの持つ世界観や現実認識を大きく表現している。現実は否応なしに冷たいもので真に善悪というものも正義というものも存在せず、ただ事実だけで成立しておりそれを偏執的に追うという視点だ。

 それを簡潔に示すシーンがあるのだがこんな感じだ。事件をまとめるワトソンに対し、ホームズはこう言い放つ。「科学的観念ではなく、物語として見るという君の致命的な欠陥は残念に思うがね」 この言葉は決定的にホームズの現実観を示していると思う。

 会話劇を主体にした人物のヴィジュアルやロケーションの蒼く暗い色調や、感情を掻き立てることを目的としないBGMに至るまでホームズの空虚な狂気と偏執の描写の手は緩めない。それはまるでクロード・シャブロル(フランスのヌーヴェルバーグという映画革命の一派で、探偵映画を主に撮った監督)の映画みたいだ。

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 現実は善悪もなく、感情移入でき情緒的に消化できる物語のように単純で割り切れるものじゃない。ここでのホームズはあらゆる 事件に対してどんなでたらめな結末を導き出そうと、真実を割り出そうとそこに差は殆どない。等価だ。いかに最善と思う結末まで導いても、一方で傷つくものは現れるしすべてをフォローすることがあり得ない。

 事件をロジカルな解決によって快楽はなく、推理ADVとしては霧のように不明瞭だ。だがしかし現実は物語のように親切丁寧ではないし、善悪にも正義にもくくれず、唐突で冷たいものだ。そうした視座がホームズというキャラクターに集約されている。

 このホームズは情緒も善悪も正義もそのどれもをまったく信じてはいない。だから平然と狂気的な行動もとるしどんな事件にも揺るがず、事実の積み重ねによって存在する現実の冷たさと空虚さを見つめる視線を一切崩さない。ゲームの構成は「LAノワール」「the walking dead」に重なる部分が多いのだが、それらの主人公たちの存在感を遥かに超える。ここに現代解釈されたホームズの空虚な暗黒がある。

 

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4件のコメント

  1. ホームズってコカインの7%溶液を日頃から常用し注射していたり、捜査の為余り意味のない女装をしたり、文学や天文学を勉強せずワトソンに指摘されるまで地動説さえ知らなかった変人ですから、原作でも相当の変人ですよw
    日本語化されていることは初耳でした!ps4などで出たら買ってみたいと思います♪

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  2. >ポワロさん
    そうホームズに関してぼくはザル極まる知識でして・・・まあホームズのヤバい人解釈がちょいこの作品ではアメコミのモダンエイジ的になってるのではということで逃げさしてください

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  3. 遊んでみました!かなり面白かったです。ワトソンが推理に全然役に立たないのがなんだか新鮮でした(原作もそうなのでしょうか?)
    ホームズはワトソンに精神的にも依存している(毒を飲んでみせるのも研究のためというよりは構ってほしさや心配してくれるか確かめたくてやっているように見える)ようで坂木司の「青空の卵」を連想します。ただホームズは単純に適応障害的な描き方をされてなくて活動的だし(事件の情報を聞き出すために)相手によって態度を変えれるし、空気も読めるようでむしろおもいっきり社会に順応してるのが良いのか逆に闇を深めてるのか。
    逮捕されればほぼ死刑という辛辣な世界観やテロや罪と罰などはウクライナのディベロッパーだからなんですかね。

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  4. > sabooさん
    この作品のあとにvanishing of ethan carter もやったんですが、
    プレイしながら「ああホームズの本作はある意味現ADVのトレンドをほとんど回収していたのだなあ」とか
    ちょっと思いましたよ。
    既存の大作ADVの引用・追従が膨大ながらもこの作品でしかない何か、があるのがよかったですね。
    辛辣な世界観にしてあるのは現代型の視座でホームズを描くことや、
    そこんところを描かないとモラル選択の問題がぶれるからではないでしょうか?

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