トラウマの呼び声 躁鬱の斑鳩 「Disorder」レビュー

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 ここ10年内の中軽量規模のゲーム界隈で、2Dプラットフォーマーでは意味深い作品が数多く現れた。それは基本のジャンプアクションにもう一つ特殊なメカニックを兼ね備えた意匠を持つだけではなく、ゲームの競技性以上に特異な体験や表現が織り込まれていた。それはアートとして。それはコンセプトとして。

 「Braid」は時をテーマにしたメカニクスもさることながら、その構成はあらゆる2Dジャンプアクションの構造を裏返すかのような作りだった。

  「Limbo」
はノワール映画やドイツ表現主義的とされた白と黒の影絵のなかで、一切の説明を省き残酷な旅路を見せた。

 「Fez」は2Dの中に3Dのデザインを行う、ということを単なるメカニクスにだけにとどまらず、音楽からヴィジュアルまで3Dで培われたデザインを持って、今日のデザインを先行した2Dのピクセル時代を洗いなおした高次元のアート・デザインを実現した。

 「thomas was alone」までくればもはや極北かもしれない…極限まで記号化されたキャラクターへのナレーションが、かけがえのない旅路を彩る。

 
 ぱっと思いついたこれらの作品は、2Dプラットフォーマーを通してそれぞれビデオゲームの別の可能性を切り開こうとしていた。「Disorder」はサヴァンナ芸術工科大学のアート・デザイン科の学生によるプロジェクトからスタートした、2Dプラットフォーマーの可能性を押し広げる一つだ。切り開こうとしているのはスキャンダラスなテーマだ。そう躁鬱病の精神の揺れをゲームメカニクスに落とし込もうとしている。

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 名前のない主人公が部屋の中で佇む。部屋の奥を進むと暗転し、主人公の心の奥の言葉が覆いつくすように溢れる…

 主人公は兄弟にまつわるトラウマを抱え、ぼろぼろに薄汚れた部屋で暮らしている。薄暗い部屋の中で常に過去の後悔の記憶と苦痛に苛まれている。その心の奥深くへと潜るのは、やはり過去に残された壁に掛けられた写真からだ。

 心の奥はなだらかで幻想的な、浮遊した岩場や地面が回りいっぱいにある風景が広がっている。だが安らげるところではない。苦しむ主人公の過去が、岩場の上に目の前に現れる。

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     過去の記憶。 躁の時と鬱の時で記憶の解釈が変わっていく。それはさながら精神状態によって過去の解釈が変わる実際の体験のそれだ

 心が安定しているときの安らかな記憶は温かいもしれない。だがひとたびバランスを崩し、ネガティブな思いに落ちていくときあの時の記憶も自分を強く傷つけるように思いつめていってしまう。

 躁鬱の深い揺らぎがそのままゲームメカニクスに落とし込まれる。躁の状態でなければ通れない場所・通過できない罠があり、鬱の時でなければ見えないものもある。ミスして身体が燃えさかり消えるときの叫び声は、そのままトラウマを抱えた記憶を掘り下げられないことの表現だ。

 躁鬱を切り替えながらステージを突破していくゲームプレイは、まるで名作シューティングゲームの「斑鳩」のゲームメカニクスの歪な解釈みたいだ。冒頭に上げた2Dプラットフォーマーに乗っ取るように、おおよそアクションゲームには採用されなかったアンビエントの穏やかな音楽が躁状態を彩るのだが、ひとたび鬱に陥ればピッチを落とした耳障りなものになる。そこはやはり快楽とは別の、不気味な体験だ。

 

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 躁鬱で揺れる自らの精神の奥を掘り下げた後には、ノートを開き少しずつ書き残していく。そうして客観視していくちょっとしたセラピーの一種のような部分も含まれ、主人公になにがあったのかの真相を見ていく形となっている。

 精神の奥底にまつわるテーマは今も個人や少数製作チームが掘り下げている。2Dプラットフォーマーでのそれはもしかしたらやりつくされてしまった後であると言えるかもしれない。しかし、「Disorder」はささやかに、誰にでもあるだろう過去の記憶に関しての精神状態によって変わる解釈についてを、陰鬱なデザインで展開している。最近アップデートされ、演出もタイトになりより完成度が高まっている。

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