「Life is strange」タイムリープ&マジックアワー

中高生の青春物語とタイムトラベルの相性はよいと言われている。それはあの頃がささやかな後悔の積み重ねで出来ていて、それをどうにかしてしまいたいという感情が過去に戻るという意匠に重なるからだ。青春の光と影なんてありふれたテーマで、挫折を描いた映画も小説もたくさんある。だが、あの時代のほとんどの人間はボンクラで挫折を背負いたくはないし、そんな胆力もない。にもかかわらず、実際には何らかの挫折を背負わざるを得ない瞬間が数多く立ちふさがる。青春物語に時を戻すSFが絡むとき、たいていそんな影を帳消しにしようとする。

「さっきはああ言うことは言うんじゃなかった」「いや、ああ言っておけばよかったんだ」といったささやかな積み重ねは、それが大したようなことでなかったとしてもそう選択しきれなかった自分に降りかかってくる。今から振り返ればわずかな期間でしかなかったその時に、知識もなく度胸すらない中学生や高校生だったならばなおさら後悔は大きい。

主人公マックスはまさに知識もなく度胸すらない写真学科の女の子だ。一歩踏み込んで選択することをやり切れずに、後悔を重ねている。そんな彼女はある事件をきっかけに、時を巻き戻す能力を得てしまう。積み重なってゆく後悔を、彼女は時を戻すことで帳消しにする。だがしかし、マックスに事態を背負う胆力や、問題を決定的に解消するほどの能力が身についているわけではない。挫折を避け、青春の光と影の境を曖昧にしていくばかりである。

挫折をかかえたくないあまり、時を撒き戻し続けることで人生が上手く進むのかというとそうはいかない。どの選択を選ぼうと、いずれ訪れる決定的な破綻を免れることはできない。通常のADVならばあらかじめ、訪れる災厄なりが冒頭に提示され、プレイヤーはそれを回避するために全力をつくすゲームプレイを提示する。そして膨大なトライ&エラー、挫折や失敗した瞬間をセーブポイントまで巻き戻してなかったことにし、大団円にむけて突き進むわけだ。でも『Life is Strange』においては綿密に大団円に向かうことを拒否した構成を取っている。全く逆で、ゲームが終盤に近付くにつれ、逃げようのない挫折を受け入れざるを得ないようになっているのである。そうした挫折を受け入れていくということは、俗に青春時代を終わりにすることを意味する。

プレイヤーはマックスを演じる中で目の前に起きる挫折や屈辱を前に、何度も時を巻き戻し、やり直すだろう。しかしそれはハッピーエンドに向けたトライ&エラーの試みではなく、実は挫折や屈辱から逃げ出そうとしているにすぎないのだ。人生で避けようのない挫折を回避していくことで、影を落とさないように曖昧にしていく。

その曖昧な風景は、マックスの親友のクロエとの会話の中で言い当てられる。二人は日が落ちる間際の中でこう言う。「マジックアワーっていうんでしょ?」

それは本作をデザインしている様々な部分をきれいに言い当てている言葉だと思った。マジックアワーとは、太陽が沈むわずか数十分間の時間、光と影の差が曖昧な色合いになる時間帯のことだ。この色合いを求めて写真や映画で多用されてきた。でも『Life is Strange』においてはもう少し大きな意味を持っていると思う。そもそものグラフィックスからストーリーテリング、ゲームプレイに至るまで、光と影を曖昧にしていくことそのものだからだ。

『Life is Strange』のグラフィックが持つ、憂鬱で美しいイラストレーションみたいな空気感の素晴らしさの根底には、マジックアワーの色調がモデルになっていると思う。マジックアワーとは、わずかな時間しかない美しい時間であり、ある意味でそれは短い青春時代ということへの韻を踏んでいると感じた。マックスが決定的な挫折や破綻から逃げようと時を戻すということは、皮肉にもわずかな期間でしかないその時代を引き延ばすかのようだ。この作品は、挫折から逃げようとすることが美しくなってしまう。破綻から逃げ出すゲームプレイはわずかな時間でしかない、淡いあの時代を引き延ばしていく。そんなアンビバレンスな感情が入り混じるゲームプレイを徹底している。

人生の挫折というものにまだ気づかないから「ネクロマンティック」(死体性愛者)の映画を女の子に勧めることにためらいはなかった

 

4件のコメント

  1. こんにちは、LIFE IS STRANGEはなんとなくやろうと思ってたのですがスルーしてしまいましたが、記事を読んでやっぱりやろうかなと思いました。

    「青春における失敗や挫折を逃げずに受けいることが青春を終わらせること」という読み解きは非常に勉強になります。(人生的にも批評的にも)
    大人になることや成長から逃げることがタイムリープに繋がっているということなんでしょうね。

    しかしこのゲームはひょっとして『時をかける少女』の影響を受けているんでしょうか?
    あと『ネクロマンティック』ってwww そんな映画ネタが出てくるなんて! これと「死の王」は中学生の頃ビデオ屋においてあってメチャクチャ見たいと思ってた映画ですよ。(でも借りる勇気がなかった)

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  2. おお、「ガキのモード」でもコメントをありがとうございます!青春期の無力や鬱屈が美しくなってしまうという意味で、ちょっと「聲の形」にも近いんですよね。

    伝統的ポイント&クリックADVの構成を引き継いでいるのですが、そこで起きる選択の失敗によるゲームオーバーを避けていくゲームプレイがそのまま挫折や破綻から逃げ出したいという感情に沿うからすばらしいです。で、ストーリーはそれが永遠に続かないことを示唆してるというのもいいですね。

    「ネクロマンティック」だけでなく、「ツインピークス」などマニアックな映画・海外ドラマの要素に溢れた作品になっております。単純にストーリーの引きがうまいゲームですので遊びやすいですよ。

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  3. マックスの能力の覚醒が「授業で答えられなかった恥ずかしさ」から始まるのとか示唆的ですね

    大人が自分の生まれる前にタイムトラベルする海外ドラマ「11/22/63」観たのですけど……ちょっとイマイチで
    うーむ、やっぱり青春ものの方がタイムトラベルと相性いいのかもと思いました

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  4. まあタイムトラベルの理由を架空世界の理屈に合わせたもの(グレッグ・イーガン作品とかかな)か、主人公の心象や感情かでかわりますから。で、青春時代はまさに心象や感情がドライブしていますよね。それゆえにハマるんだと思っています。

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