『Strange Telephone』知らない通知先

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ありふれた電話は、ほんのささいな行き違いで奇妙な体験につながる。たとえば一通の知らない番号からの不在着信に折り返すとき。電話番号の押し間違い。はたまた、いたずらで適当に番号を入力して、偶然繋がってしまった。そのとき、電話の先にいる人間の声がだれなのかをまったくわからないまま会話が始まる。たいていは「番号を間違えました。すみません」の一言で終わるだろう。けれど、実態がわからない、座りの悪い感覚は残る。電話の向こう側の彼らは何者だったんだろうか?誰だったんだろうか?

膨大な電話番号にコールし向こう側がまったくわからない世界に触れていく『Strange Telephone』は見知らぬ電話番号の向こうが誰なのかがはっきりしない座りの悪さを思い出させる。スマートフォンを主なプラットフォームとしていることもあって、より生々しい感触を残していく。

向こう側の実態の知れなさはゲームの開始から徹底している。主人公・ジルが目覚めた先はまったくの暗闇の中。ゲームの進め方の簡単な説明が終わった後には、彼女と電話だけが残される。彼女が誰なのか、ドアとカンテラがあるこの場所がどこなのか。

プレイヤーが最初にできることは、そばにあるカンテラでわずかな光をともし、電話機のグラハムを使って番号をでたらめに入力して異世界に向かうことだけだ。しかし、どの世界も実態がつかめない。誰かの部屋のような世界もあるし、竹林が生え、うさぎが走り回るようなおとぎ話を想像させる世界もある。そんな具体的な世界もあるかと思えば、奇妙な文字や紋様が空中を浮かんでいたりする抽象的な世界だってある。それは見知らぬ電話番号の向こう側が誰なのか全く分からない嫌な感触をゲームとして追体験しているようでもある。

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番号によっては「間違えました、すみません」の一言で電話を切るように、異世界になにも手掛かりがなければ離れる。なにかヒントに繋がる異世界に繋がったときには、さながら間違い電話で思わぬ形で話しこんでしまい、相手が誰なのかわからないまま会話が続けるかのように手がかりを探す。そうしたことを繰り返すうちに、いくつか脱出に繋がるアイテムを手に入れることができる。

しかし見知らぬ電話番号の向こう側にしか触れられないという状態は、やがて精神を壊すだろう。何度も電話をするうちに目の前がおかしくなっていく。暗闇の中で不思議なうさぎが歩き回るのが見えはじめる。そう、この世界にいられるのは限界がある。GLITCHの数値が限界に近づくにつれ、その言葉どおり画面はグリッチまみれに歪んでいく。やがて死神のようなものに命を奪われてしまったり、限界に来るとジルは電話機グラハムと同化し、暗闇に取り残される結末を迎えてしまう。まるで、相手が誰なのかわからないままの間違い電話を一方的に切られるようなバッドエンドを、最初は何度か迎えることになる。

こうした見知らぬ電話番号の先がまったくわからない感覚を生み出しているのが、本作の最大の特徴である電話番号によって異世界が自動生成されるデザインだ。電話番号の組み合わせで異なる世界に導かれるため、特にゲーム序盤では実体がつかめない感覚は強い。

ゲームでは何らかのランダム要素は重要とされる。特にビデオゲームの自動生成では、ローグライクというジャンルにてプレイヤーの腕前を試すランダム要素として機能してきた。近年ではスマートフォンの縦型のデザインを生かした作品で、井戸の底に向かうローグライクアクション『Downwell』が高い評価を得たし、本作と近い時期にリリースされた、シューティングにローグライクの要素を織り交ぜた『Missileman』などが挙げられる。

ところが近年の自動生成はプレイヤーへのチャレンジに留まらなくなっている。それは、実態がわからない世界観そのものを表現するために使われるようにもなった。昨年話題になった『No Man’s sky』はその意味で最大のタイトルだ。銀河系から惑星、その生態系に至るまでの世界観が自動生成される野心的なゲームデザインは、宇宙の広大さと得体の知れなさを表現しようとしていた。

一方『Strange Telephone』は『No Man’s sky』と比較すると、プレイヤーにクリアまでの目的を持たせたまま、実体のわからない向こう側の世界を体験させることに成功している。それはアドベンチャーゲームの一種である、脱出ゲームの構造を生かしたことが大きい。どうすれば脱出するための鍵を見つられるのか、順序立てて謎を解いていくシンプルなパズルを基本としていることで、プレイヤーが結末に向かうまでに迷う要素が抑えられているためだ。

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実体の知れない世界観の表現に特化した自動生成は、特にゲームを始めた序盤こそ衝撃は大きい。だが、中盤以降には中だるみしてしまう。プレイヤーへのチャレンジに特化した自動生成であるローグライクと比較すると、こちらは序盤が定石を掴み切れないゆえに苦しいゲームプレイになりやすいが、ゲームに慣れていくころに、ランダムに構成が変わるステージに対応できるようになっていく面白さが積み重なっていく。対して、世界観の表現に特化した自動生成はプレイヤーのスキルの上昇というところに繋がりにくい。

とくにアドベンチャーゲームというジャンルではプレイヤーのスキルの上昇は見込みづらい。世界観の自動生成はやがて見慣れてしまい、新鮮さを失ってしまうことや、次にどうしたらいいのか詰まってしまいゲームクリアまでのモチベーションを低下しやすくなるなど、中だるみしやすくなるリスクを多く抱えている。『No Man’s sky』がリリースされた当初そうした問題に直面し、発売前の過大なプロモーションともあいまり賛否が分かれた。(以後のアップデートでは宇宙基地の増設やパーマデスのモードを追加するなど、サバイバル&クラフトの要素を強化する方向に舵を切っている。)

しかし『Strange Telephone』は随所にゲームプレイしやすいデザインを施すことで、そうしたリスクをうまく避けている。まずバッドエンドを迎えたとしても、再プレイしたときには手に入れたアイテムは手元に残っているため、再挑戦しやすくしてあることも大きい。また、入力した電話番号の先の異世界がどんな構造になっているのかをあらかじめ知ることのできるアイテムもある。それは電話帳を手に入れるようなもので、アイテムを手に入れるヒントもわかりやすい。

だんだんと見知らぬ電話番号にコールする不安は薄れていくようになり、向こう側の世界を脱出するように具体的に進行していけるようになる。さながら見知らぬ電話番号の先にいる、誰なのかわからない人間と会話を続けるうちに、向こう側の人物がどんな人間なのか少しつかめてくるかのようだ。

『Strange Telephone』は世界観を自動生成するシステムとプレイヤーのモチベーションを低下させないゲームデザインによって、見知らぬ電話番号の向こう側にいる得体の知れない相手を、会話を続けるなかでなんとかわかってくるかのようなゲームプレイを実現している。ついに暗闇を脱出するカギを手に入れ、ひとつのエンディングを迎えたときには、このゲームの向こう側の世界の実体はなんだったのかをシンプルに理解できるかもしれない。

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ところが結末は単純な解釈には至らないように出来ている。様々な条件で到達できる、複数のエンディングの全てを観ると、やはり座りの悪い感覚へと引き戻される。

ジルは本当に暗闇から脱出することはできたのだろうか。それとも今だ暗闇の中なのか…間違い電話の相手と話し込んだとして、相手のことをもしかしたら少しわかったような気になることはあるかもしれない。だけど結局のところ相手の顔も、身なりもなにもわかりはしない。『Strange Telephone』はほんの一瞬、プレイヤーに全てを理解させるような終わり方をする。だけど結局のところ電話の向こう側のことは、最後まではっきりとはしない。

見知らぬ電話番号にコールしてしまったとして、「間違えました。すみません」で受話器を置いたとしても、電話の向こう側の人物の背景がある程度分かったとしても、いずれにしても向こう側のことは捉えきれない。どのような結末を迎えたとしても、通話を終えたあとの座りの悪い沈黙を体験させる。

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