「あなたの国のビジュアルノベルは素敵だね」そう抱きすくめられるかのようだろう だがその指は命を奪う急所にかけられるだろう『Analogue:A Hate Story』

Dadad

 スクリーンショットだけ見ればそれはシンプルだし、キャラクターデザインもどこかぎこちなさがある。偏見を丸出しにしていえば日本のビジュアルノベルのムードを追いかけた海外によるものなんて印象に当てはまってしまう。でも若干の稚拙さは、ビジュアルノベルやらラノベアニメゲームの大手たる日本からすれば無償の愛のような感じすらするだろう。 

 だが蓋を開けばその印象は瞬く間に掻き消える。海外側からの無償の愛のようなムード、しかしその中身は、おそらくは日本のビジュアルノベルシーンの急所を立て続けに刺しているみたいだからだ。


  ファーストインプレッションからしてもう、ある意味でオタクやらネットやらのシーンの急所を刺すかのような印象だった。でもそんなのはオレの最悪の勘違いだ・・・でも書いてしまおう。「韓国の歴史」「ヘイト」「男尊女卑」-そんな言葉や要素が含まれる日本のビジュアルノベル風フォーム、コスプレありの美少女モノ。いまどれだけ日本語のwebでちょっと脇を見れば、書店に行けば膨大な隣国に対しての批判から罵倒があり、逆にいまどれだけ日本のラノベアニメゲームシーンごめん長すぎる言い方だなオタクカルチャーみたいなものがいっさいそのことにアプローチしないようにしたことだろうか…韓服を着るギャルゲーのキャラっていうのは過去にはあったのかそうでないのか…

 完全な狙ってやっているわけではない偶然だろう。おそらくカナダ発でありクリエイトに関しての基礎リテラシーがやけに高く、そして日本のラノベアニメマンガネットシーンのドメスティックなところから遠ざかっていたからだろうか?

 やがて切っ先はメカニクスにさえ及ぶ。紹介分には25世紀、人類は宇宙空間にコロニーを確立させるべく、宇宙船を発進させた。しかし、それは目的地に達することなく、あらゆる交信を絶ち、姿を消してしまった。その宇宙船ムグンファが再び発見されたのは、数千年後のことである。死者が遺したログを読み解き、漂流する宇宙船ムグンファで何が起こったのかを明らかにしよう。」なんてある。

 でもゲームを開始して眼前に広がるのはコマンド・プロンプトを模したような画面だ。ムグンファのこと、25世紀の宇宙コロニーのことなんてあらましや設定、本当にプレイヤーが接するべきもののためのもののの言い訳にしか過ぎない、プレイヤーがまさに目の前で展開されていること、そしてやれること、総じて対峙するものとはシンプルだ。シンプルな関係にまで削ぎ落とされている。

 PCのハッキングやログの解析を模しているそれは、ジャンルから振り返れば大昔のPCとプレイヤーの関係によるテキストアドベンチャーの記憶にまで繋げようとするかのようだ。”look"だとか”take"だとか単語を打ち込みレスポンスを行うそれだ。

そうシンプルな人間とPCがレスポンスしあうと言う関係。それは二人のヒロインであるAIの*ヒョネと*ミュートの関係にまで繋がってゆく。典型的なギャルゲーの表層。しかしそれはすぐ様に膨大なログの内容に裏切られる。そこにはギャルゲーみたいな文体ではなく、硬質な文学のような文体が付きつけられる。

Mmmmmm

 ログの内容は消失した宇宙船の内部とはもはやだれも思わないだろう。男尊女卑を当然としていた社会であった韓国の李氏朝鮮の時代をモチーフとした二つの貴族の記録、その通底音にあるのはそうした社会で虐げられ、名前さえ取り上げられる数多くの女性たちにある。まるでそれは20世紀初頭の文学を綴るかのような手つきであり、そのログをギャルゲー風味の*ヒョネと*ミュートが応じる。

 カオスだ…近い時期に読んでいたフィンランドの女性作家ソフィ・オクサネン「粛清」の硬質な印象と(彼女はフィンランド文学界のレディ・ガガと呼ばれていて、本作の作者クリスティーン・ラブのエキセントリックなファッションセンスにも近いってのも込みで思い起こさせる)、ラノベ挿絵でしかもコスプレみたいなのが共存してる。

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 やがて、結末に行くに従うにつれて真の意味では李氏朝鮮を取り扱った男尊女卑の社会の問題とはとか、宇宙船とその周辺に何がであったのだろうかとかそういったことが本質的ではなくなる。おそらくは作り手自身の、なんというべきか生理的な、本質的な部分とシナリオやキャラクターの意志が共振していくかのように、それは抑圧かあるいはジェンダーのことか、シンプルに孤独や孤立、そうした感情がポイントになっていく。

 そうして驚くべきは、知らず知らずのうちに急所を刺し続けるような意匠が最後に反転することだ。まるで”カナダ人が取り上げた李氏朝鮮をモデルにした文学”と言って差し支えないような膨大なログは悲劇的な真相が発覚する。 大抵の文学ならそれで終わる。ところが典型的なビジュアルノベルでギャルゲーの意匠が、悲劇の結末を一転。まさかのハッピーエンドにまでしてしまう。

 そう、ありがちなヒロインのプレイヤーへの愛の告白。だがそこにはムグンファ号で記録されてきた膨大な女の子の抑圧の記録やどうしようもない孤立、もしかしたら作り手自身の立場や感情もひっくるめてのそれは、ありがちなものの何倍もの意味が重なってのそれだ。このジャンルやカルチャーの命を奪う急所を刺したのちに、このジャンルやカルチャーらしい形でもう一度抱きすくめられるかのように終わる。

 

8件のコメント

  1. えええ!そんな凄いゲームだったのか。セールの時に買っておけばよかったなぁ
    海外製のビジュアルノベルといえば「かたわ少女」を自分で翻訳しようとして挫折した思い出が……

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  2. けっこう淡々としてるとこもあるんですが、
    日本のADV・ギャルゲー・ビジュアルノベル観からすれば
    異質なのはたしかです。
    かたわ少女翻訳!いまからでもやりましょーよー
    英語力付くから後々ほかの英語圏のゲームとか記事読むとき役立ちますよー

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  3. ADVのウォーキングデッドシーズン2は映像からなんとなく会話の内容を予想出来たのですがビジュアルノベルは直訳しても意味の通る文章にはならないことも多くて(汗
    そういえば台湾から「雨港基隆」というビジュアルノベルが日本でも出るみたいです
    「二・二六事件」を舞台にしたとのことで凄そうっす

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  4. 『二・二八事件』でした。全然違う(汗
    PVの主題歌がまさにギャルゲーっぽい歌で笑いましたが、ヒロインの一人が日台のハーフで父が日本から自分を迎えにくると信じているという設定がすでに泣かせられます

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  5. インヘリテージのときにも思いましたが
    アジア圏のノベルゲームというのはもう少し掘り下げていったら面白いのかもしれません
    そういやだいぶ前にIOSで韓国のノベルゲームをやりましたが
    オールハングル文字、まさにビジュアルのみを体験するという
    とほほ体験を…

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  6. オールハングルは読めないw
    中国や韓国製でiosの美少女(美青年)ゲームはちょくちょくあるみたいですね
    実は以前女性向け恋愛ゲームの制作会社に勤めていたことがあって……
    社長がアメリカと中国で売るとか言いだした時にはバカじゃないかと同僚と話していたことがあったりしたので今の状況は少し複雑ですw
    CG彩色の発注先が中国に渡っていたこともあるし、アニメは完パケまで作れる彼らが自分達で作るのは欧米よりはまだハードルが低いかもですね

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  7. マジかよ!BLメイカーだったのか!
    現在STEAMでもちょいちょい出ている現状、当時の早すぎた判断なのでしょうか。
    いやいつ頃の発言なのかはわからないが・・・

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  8. BLではなかったんですけどねw
    アジアではなくアメリカに先に行ったのがいけなかったのか
    ケータイ系だったんでやっぱり欧米(STEAM)の層とは合わなかったのかな

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