4分の映像でまとめればこんな感じのゲームでした
振り返ればここ2年は「Watch_Dogs」を延々と追ってきたわけで、言及した記事もワンタイトルの中ではかなりの数に上る。
「watch dogs」ウォッチドッグス中心で見るポストGTA・オープンワールドスタイル
E3 2013の感想と考察・「The Division」「Watch dogs」、「Destiny」「MGSV」が織りなすネクストレベルの未来光景
監視・規制・権力のビデオゲームズ 「ディシプリン*帝国の誕生」から「Watch dogs」まで6選
ということで今回は長らく追いかけてきた「Watch_Dogs」レビュー完結編。
「1984年」は1948年に書かれた当時の社会主義・全体主義をモデルとしたディストピア小説だ。ビッグブラザーが支配し、「テレスクリーン」と呼ばれる双方向で民衆を監視するテクノロジーが進歩した未来であり、社会へのリスクを徹底して管理するイメージが提示された。そのイメージは、モデルとなったソ連が崩壊し、社会主義という思想や体制が終わりを告げてもなお継続していった。情報化のテクノロジーの進歩と社会の管理や監視の体制を推し進めることは続いていったからだ。
現実の80年代に入ったところから、思想や体制というのものとは別に情報化のテクノロジーやインフラの整備が進む。情報化の加速・社会のリスク管理のシステムの構築などが加速していき、その情報化のテクノロジーは社会の管理システムと交わることになる。そしてそこに並走するように80年代よりビデオゲームインダストリーも加速度的に成長していく。
ビデオゲームの表現レベルや、選択されるテーマの幅が広まるにつれ、現実を模したリアルなオープンワールドや社会システムをゲームメカニクスに転化するような作品が作られていくことは少なくなくなった。「GTA」シリーズなどをはじめ現実の都市風景と社会ルールをビデオゲームの形で戯画化するレベルまで進歩した。
そして現実も情報化の環境は加速度的に整ってゆく。それが管理や運営システムと混ざり合うことで、現実の社会環境自体がある種のメカニクス化を強めていく。
「Watch_Dogs」はビデオゲームが現実世界を精微に模そうとするほどに進歩したのに加え、現実の環境自体が情報化と管理化を進めることによる2者が寄会い交錯した瞬間そのものだ。ctOSが都市を監視し管理するインフラとさえなるイメージはそのまま「1984年」のテレスクリーンとビッグブラザーの現在を表しているかのようだ。
「Watch_dogs」はビデオゲームの進化と現実の社会環境の情報化と管理の混ざり合うことによってシステマティックになった背景とが寄合い、混ざり合ったコンセプトを遺憾なく戯画化している。
一通りクリアして正直に言えば、のメインストーリーの面白さであるとか、UBIのアサクリやスプセルなどゲーム全体のメカニクスや進行の集合体の新鮮味の弱さ、ステルスに寄ったことによる都市オープンワールドのトライアスロン感(銃撃戦・近距離格闘戦・カーチェイスと次々に切り替えて競う いまなら「Sleeping dogs」がこの可能性を見せている)弱まっちゃう感じはある。
メインストーリーに関してはオーソドックスなフィルム・ノワール構造だ。これは「都市全体をハックする」のというコンセプトを拡大して見せてくれるというよりかは、このゲームの壮大なコンセプトがもたらす体験といささか分離する感覚は否めない。
とはいえ都市全体をハックし監視や情報を暴いていくコンセプト、ゲームプレイという基盤から導き出されるストーリーとして、個人的な復讐から依頼者の調査というものを通じてシカゴという都市の暗部や歪みに触れていくことになるノワールの構造が選択されるのは、コンセプトをまとめるのにはちょうどよかったからのかもしれない。そういやサイバーパンクの代表的「ブレードランナー」にしても、あれだけ豊饒な未来世界のイメージを提示していながらストーリーラインにノワール構造を使ってまとめていたのを少し思い出す。
ノワール構造・それはフィルムの黒が強調され・社会の暗部に触れ・主人公は当事者であり観察者・ファムファタール・単純にいうなれば「LAノワール」を思い出してくれれば
80年代サイバーパンクの大家から、現在の「Watch_Dogs」に共通するのはそう、ノワール進行をはるかに超えるコンセプトやイメージの提示だ。「Watch_Dogs」に至っては既存のゲームメカニクスさえ含めて制御しきれていないそれだ。
このゲームは壮大なメディアアート的とも言うべきかな、都市と監視・管理と情報化ってコンセプトを現行のビデオゲームの環境とさえ照らし合わせ、あらゆる側面でインタラクションさせて見せる。
監視・管理・ハッキング、これはシングルプレイでエイデンがシカゴctOSに向けて行うというレベルだけではない。今や当然のようにゲームでマルチプレイも、SNSのシステムを組み込むレベルさえも含まれている。
さらにはスマホ・タブレットによるアプリとの連携さえも含まれる。擬似的な形で他のプレイヤーの動きを監視し、ハックしてその動きを観察するなんてインタラクションさえ加え、ゲーム中のスマホでのハックと監視のイメージをも、現実のレベルにて実現して見せようとしている。
オレが本作でゲームプレイ中感銘を受け続けたのは便宜的なノワールでも、ステルス重視のオープンワールドというゲームデザインでもなんでもなく、シングル・マルチ・そしてスマホアプリに至るまで徹頭徹尾あらゆるレベルまでビデオゲームと情報化と社会管理が交錯している現実を提示していることだ。エイデンの実態のわからない全能感と正義とともに、都市を監視し暴いていくこと、干渉していくこと、他プレイヤーさえも監視すること、干渉すること、そのインタラクションの全てだ。大規模で、セールストップになったメディアアートのようなものだ。
コンセプトはいつだって現実化されるなかでその初期衝動のイメージは実体化されるシナリオの構造、メカニクスの構造の中で掻き消えていくし、コンセプトそのものは皮膚感覚的に面白いとは限らない。しかし「Watch_Dogs」はUBIの培ってきたメカニクスの中、ぎりぎりのところで踏みとどまる。
UBIはAAA大作をリリースし続ける裏の顔として、ビデオゲームとプレイヤーとの関係性そのものさえも時には抜き身で提示し、時にはひっくり返したり、時には問いかけるということを各所で続けてきたし、この先も続くだろう。その中でも「Watch_Dogs」はUBIのコンセプチュアルの部分が成功するぎりぎりのところまで突き詰め、可能性を見せる。そう、こう書くのは本作は失敗作だからだ。
このゲームが一番アレなのはアクションでも何でもなくエイデンという主人公とその立ち居地かと思う。
まず、妹と甥っ子を守るために戦うおじさんという物語上の役割と、ハッカーで反社会勢力という役割と、
人の命を奪ったり、警察と戦うのも厭わない姿勢があると感じたが、エイデンの性格自体は妹と甥っ子のために戦うやさしいおじさんという側面が強い。
これがGTAの主人公たちのように頭が弱かったり、ガチガチのギャングだったりするとその二面性を理解できるが妹と甥っ子はどう考えて中産階級の一般市民で、エイデン自体も秩序に基づいた思考を行う30代から40代の分別のついたのやさしい叔父さんだとおもう。
こうなるとエイデンという主人公の性格が役割に完全にフィットしていない。
しかも、物語後半から若干頭がおかしいうえCTOSの開発者の一人のT-BONEが出てくる。
主人公が担うべき役割のフィット性とCTOSとの強い因縁を持つT-BONEこそが主人公に相応しい気がする。
最後に、エイデンの服装と顔があってない。コスチュームによってはおっさんが若作りしてるだけにしか見えない。
AAAタイトルにしては上記のようなところが最適化されていないように感じた。
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>ネームレスさん
そうエイデンのキャラクターはすごい歪。
ファーストインプレッションで書きましたが
プレイヤーがエイデンをロールプレイしてるとき、
そこにモラルやインモラル、善悪みたいなものの流れ自体が
世界観やゲームメカニクスの中で揺らぎます。
表向きのストーリーにおけるエイデンというのが違和感あるとしたら、
それはやっぱりこれもゲームメカニクスと搭載される世界観が生み出した
キャラであることの違和感にも直結してるのかもしれませんね。
GTAVの各主人公は、そのまんまGTAの運転・射撃・暴動の
行動が象徴されてるような感じで、
ウォッチドッグスの場合もそうしたゲームメカニクスと行動による
造形が関係してると見ます。
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>ネームレスさん
ウォッチドッグスに感じる違和感の正体がわかった気がしました。
ウォッチドッグスはおっさんを主人公にするよりも、
攻撃力の全く無い女・子供を主人公にした方が面白かったのかもしれません。
街そのものを武器にするハッキング、というテーマも強調されますし。
つまり、姪を殺されたおじさんが犯人を追うよりも、
おじさんを殺された姪が犯人を追う方が良かった可能性が……。
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>paperdriver さん
それの場合、iosでリリースされてる「リパブリック」やったらいいです。
純粋で自然に「現代の管理・監視社会をハッキングして戦う」の構図なら
あっちの方がいい。
逆にすげえややこしいんだけど、Watch_dogsは違和感そのものが
制作側の狙ったものだとしたら?既存オープンワールドも、現代都市社会も含む
ダブルのカウンターだとしたら?というのがぼくの感想です
と思いながらUBIはそこをどこまで意図してるのか、
ほんとはアカデミズムバカ(脱構築とかいいながら、デザインの勘が悪いみたいな)なのか…
ぼくにとってはUBI全部が違和感なんですが…
(次回のエントリもUBI作品です。)
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